兵法三十九箇条
五方の構の次第
一、喝咄切先返 中段 切先返。敵合遠き時は、ひつさげ、敵の刀とどかぬ程により、身を真向に直に立て、右の手、前に出し、 太刀大小の刃を余りたてず、ひらめず、少しすじかえて、ふところを広く、少し大小を組みたる様に中段にもつ時、 余りつき出さず、ひぢをかがめず、越さず、右の太刀先少し上る心にて、敵の中筋に有ように構え、 心ざしの心を軽く、心の心を残し、敵打出す心を請け、敵の打太刀にあたらざる如く、向の顔に突かけ、 敵に巧みを失わせ、是非もなく打つ処を、切先を返して、上より手を打つ也。
其の太刀前に捨てたる如くひつさげて、我が身を動かさず、敵又打ちかくる処を、三分一にて下より手を張るものなり。 惣別、敵が打つ也と思う心の頭に我が心を付けて、先々の先になるものなり、 此の太刀何れも出合う也。能々分別すべし。
二、義断 上段 義断のかまへやうは、右の手を耳にくらぶるといふ心なり。太刀の柄さきひらくこころなきやうに、
手のうちしめずくつろげず、まへせばに構るなり。左にはさしいださず、その上中下のこころは敵の構にあり。 打出すこと、遅速・浅深・軽重、敵の打によるなり。表としては敵の手を打也。太刀筋下へ打ことなし。 むかふへ打物也。さて太刀筋喝咄する時太刀の刃を立、敵の打右の手をつく心にあげて打あぐること、 敵のの太刀にあたりてもあたらでもおなじことなり。敵あひ近くしてはなりがたし。うけて取なり。分別すべし。
三、水形 下段
水形の構たること、太刀は先をひらかず、左の手をつきいだす。左右の手、ふところをひろく構、 臀を伸ばさぬやうにして構、ふり出す事、敵の打手をすぢかへて、ひたひのうへへふりあげうつこと、敵の中筋をうつなり。 前ひろに打心あり。ひだりへすじかへうつことあしし。太刀すぢは、きつ先がへしになをることなり。 又ことによりて迂直の構になすことも有、分別すべし。惣面、太刀構五方にすぎず。
敵を打ということは、太刀の道ふたつなし。これを以てこころへあるべし。
四、重気 左脇 しげきの構、ふたつあり、表にしては太刀を前にすてて構、太刀先左へよせずして、 敵の打出だすに三分の一と云心にてあつる。当やう、我手をあげて、敵の太刀先に手のなきやうに、つき出して当る。 敵打落とさむとするに、我が心をば、はや打手をくれて立つる。いづれも太刀筋、きつさきがへしになをる心あり。 又ひとちにはきつ先むかふにして、我右の足に手を付、ひつさぐると云心もち、敵のこころのおこる所を打、
浅深・軽重はてきの心によつてなり。この太刀よくよく分別るべきなり。
五、右直 右脇 迂直の構は、太刀を右の脇へすつる心に構、左は高くなきやうに、手をふかくくみちがへぬやうに持ち、 敵の打にあたること、これも三分の一にしてあたる。打落とさむと思ふ時、あたる心にして少したをぬき、 すぢかへてきるなり。速きこと肝要也。太刀すぢゆがむことなく、なをる所は喝咄切先返たるべし。