二刀流の理合いを学ぶ

兵法書付について

兵法書付

兵法執心有によって、伝所のあらまし書つくる也。 いかにとしてこの道さだかに書しるさるべきにあらず。 ただ折ふし出あふことのみ、あとさきに云いだすなり。 もし太刀すぢほどのわすれ有ところ、 又は身のなりのさまなどのちがひも有べき物なれば、
おりおりに見て、おろかに書たる所をもふかく、おもい入りて見分、 この道よこしまならぬやうに有べきなり。

心持やうの事 こころのもちやうは、常々兵法を心にたゑさず。行にも座するにも、 人前ただひとり在時も、この道の心をなし、人ごとに負といふ事なきこころを分別し、
直なる心にて、折にふれことにしたがひ、皆兵法の道となりて、人の心をしり、 わがこころを人にみうけられず、ただ一道になく、つよきところ、よはき所、 ふかき所、あさき処、よくよく心得て後悔不慮と云ことなきやうになり、 常にしも敵にあひておなじ心に思ひなし、ものごとに、俄に行あたらぬやうに心をつけ、 よろづのおさまる所を見たて善悪を知ること、これ兵法のこころへ也。

目付の事 眼つけとする所、観見のふたつのみはけ、心意ふたつの思ひなしをよくしりて、敵の顔に目をつくるなり。 敵の顔みやうの事、近も遠も、ちかく思はず遠きやうに見なし、我目は常よりほそくなる心にて、 眼の玉を動さず、うかうかと見る心なれば、敵の手足のうごくその左右までも、大かたみゆるものなり。 見の目をよはくみて、観の目をつよく見、敵の心のうちをよくしるべし。 心は顔にあらはるるなれば、敵をよくしり、その敵敵の目つけなるべし。

身なりの事 身のかかりは、大形常のごとく顔はなごやかにして、くせものなく、首はうしろのすぢすこしつよくして、 ゆがまず両肩をさすことなく、むねを出さずして腹を出し、腰をおらさずひざをかがめず、身にひづみのなきやうにあるべし。 常よりも兵法の身なりにして、敵にあひ俄かに身のかまへなきやうに心へすべきもの也。

太刀の取やうの事
太刀の持やうは、人さし指と大指と指先逢うやうにもち、人さしをうけて持、大指を指の根をしめ、たけ高指を中にしめて、 くすし指、小指をつよくしめて持なり。手の内は、大指人さしの俣に柄のつよくあたらぬやうにして、太刀のむねすぢを 人さしの根へよせて直に持べし。手くび少もゆがみなくやはらかにみゆるやうに持べし。 太刀のつばきはに持べからず。柄先はくるしからず。持ち様左右共におなじことなり。

足ふみの事
あしのはこびやうは、つま先を少うけてきびすをつよくふむなり。 あしにきらふこと、飛足・うきあし・またふみすゆる足・ぬくといふ足・おくれさき立足、いづれも是皆あしし。 山・川・石はらにても、くるしからぬやうにあるべし。敵をうつにも・うくるにも、足立かへぬことなし。 又、敵の太刀打出すくらひをみて、我かたあし(左足)をふみこむと専一也。
惣而足あひ、ふみひらきてみやう(ゐる)事なし。左の足をつぐべき也。

太刀構五つの事 第一、円極太刀筋之事 円極とは、よろづの太刀に出会フひろき道なれば、構の初メとするなり。太刀の構やうは、相手によりて、 又ときにしたがひ心持あり。構の事、太刀は左右ともに、はをしたへもせず、よこへもせず(構るなり)。 平生敵をよせつけぬやうに構えるは、太刀先をあげ、さし出し、構えるなり。又敵を近づけむと思ふ時は、
太刀先を少さげ、ひきつけて構ゆる心あり。又敵にうちいださむとおもふには、太刀をさげ、ひらに構ゆる。 敵をつかむとおもふ時、又うち落たき時、敵つくこと、敵打出す所を、太刀のはをしたへなし、 手を我ほぞのもとへひくつべし。つく所は、つらと胸と両所也。敵の太刀はづすこと、手につけてはづすなり。 切先かへすこと、三ツの拍子あり。敵ちいさく打ば、一度にかへす。大きに打時は、少おくれてかへす。 また敵足をふみこみちからにまかせて打時は、おそくかへす物なり。さて手に下よりあたる事、下段とおなじこと也。 あてて、又切先かへしになる太刀すぢ也。太刀すぢをたがえぬと云こと肝要也。

第二、義断(二、ぎだんのかまへの事) 義断のかまへやうは、右の手を耳にくらぶるといふ心なり。太刀の柄さきひらくこころなやうに、 てのうちしめずくつろげず、まへせばに構るなり。左にはさしいださず、その上中下のこころは敵の構にあり。 打出すこと、遅速・浅深・軽重、敵の打によるなり。表としては敵の手を打也。太刀筋下へ打ことなし。 むかふへ打物也。さて太刀筋喝咄する時太刀の刃を立、敵の打右の手をつく心にあげて打あぐること、 敵のの太刀にあたりてもあたらでもおなじことなり。敵あひ近くしてはなりがたし。うけて取なり。分別すべし。

第三、鷙撃(三、しげきのかまえの事) しげきの構、ふたつあり、表にしては太刀を前にすてて構、太刀先左へよせずして、 敵の打出だすに三分の一と云心にてあつる。当やう、我手をあげて、敵の太刀先に手のなきやうに、つき出して当る。 敵打落とさむとするに、我が心をば、はや打手をくれて立つる。いづれも太刀筋、きつさきがへしになをる心あり。 又ひとちにはきつ先むかふにして、我右の足に手を付、ひつさぐると云心もち、敵のこころのおこる所を打、
浅深・軽重はてきの心によつてなり。この太刀よくよく分別るべきなり。

第四、迂直(四、うちよくのかまへの事) 迂直の構は、太刀を左の脇へすつる心に構、左は高くなきやうに、手をふかくくみちがへぬやうに持ち、 敵の打にあたること、これも三分の一にしてあたる。打落とさむと思ふ時、あたる心にして少したをぬき、 すぢかへてきるなり。速きこと肝要也。太刀すぢゆがむことなく、なをる所は喝咄切先返たるべし。

第五、水形(五、すいけいのかまへの事) 水形の構たること、太刀は先をひらかず、左の手をつきいだす。左右の手、ふところをひろく構、 臀を伸ばさぬやうにして構、ふり出す事、敵の打手をすぢかへて、ひたひのうへへふりあげうつこと、敵の中筋をうつなり。 前ひろに打心あり。ひだりへすじかへうつことあしし。太刀すぢは、きつ先がへしになをることなり。 又ことによりて迂直の構になすことも有、分別すべし。惣面、太刀構五方にすぎず。
敵を打ということは、太刀の道ふたつなし。これを以てこころへあるべし。

当ルと云ト打ト云事 当るということありて、あてて、勝というにあらず、当る時の利なり。敵によはみをつけ、敵に利をうしなはせむ為也。
又打といふこと、たしかに勝所の儀なりよくよく分別すべし

手にあたること八ツあり(手に当る事) 一ツに拍子のあたり。 二ツに下段よりはるあたり。 三ツにひつさげて発りにあたる。 四ツに中段に付合、我太刀上に付ル時に一拍子之心ニテ少カハリテ当ル。
五ツに同構、我が太刀下ニ付てのあたり。 六ツに敵のうくるをみてあたる。 七ツに同うくる時構よりあたる。 八ツに打を敵はる時太刀のなりにあたる。 是さだまりてあたる所也。あたらずとても、くるしからず、拍子あしきと思ふべき也。

足に当ルkと六ツあり(足に当る事) 一ツに敵のうくる時に当る 二ツに打太刀敵はらむとする時、 三ツに敵の右の構にかまへたル時。 四ツに我太刀うちおとされての時。 五ツに敵太刀をもち、霞と云構時、中段に、つきかけ、あしに当ル。 六ツに敵中段の構、我おなじくしたより付て、小太刀にてねばりをかけ足を打。 これ足を打こと六ツ也。

若シ請ル時は(うくると云事) 一ツに敵うけんとする所をつけてながしうくること有、拍子専也。 二ツに敵うち落す所を太刀先敵の右の手より右の目をつく心にうくる、つつかけてうくる。 このふたつのうけやうも下より上へうけず、手もとを高くあげ、むかふへつく心に有べし。
又一つに敵相ちかくよる時、引きうけかへしはやくうつ。 是三つのうけ也。

入身の位の事 一ツに敵の打かくるをうけて入こむ時、入違テ入ル。 二ツに打かくるを敵のうくる時、太刀をねばりをかけて入ル。
三ツに敵太刀を右へよこたへ持時、足にあたる時、てきうてれて又打ンとする時、身かはりて入ル。 四ツに敵ト身ちがひになる拍子の時、入ル。 何も入身、背をくぐめて、のばし入ことあしし。我身をひとへ身になり、てきに近かく付べし。 入テ入(いり損ざる)ざることなきもの也。 又中すみの入身、少も身にひづみなく、強く入こと、よくよく分別つべき(すべき)もの也。

敵を打拍子の事 太刀打出す拍子、色々是大事也 一拍子と云打は、我躰心にもさだかにしらず、空のうちとて、敵もおもいよらぬ所を打、これ一拍子と云。 又敵も心をはりあひ、惣躰心も打やうにして、てきの気をみて敵の思いの外へ打所、是を空のうちとて、大事也。 又おくれ拍子と云打、身も心も打太刀をのこし、敵よどみを見て打、是おくれ拍子なり。
又石火の打とて、太刀あいなくして、すりつくる心にて、つよく速クあつること、
これ背筋身をかたむる心にし打工夫すべし。 又紅葉のあたり、敵の太刀を打をとすこと、打をはやくつよくあとをねばる心あり。打得ずしてもとおりがたし。 又流水の打、敵を打太刀、惣躰心も身も一度に打と、太刀しづかにいろいろなまりをつけ遅くあたる心で、 この外、始中後の打やう心色々あり。

先のかけようの事
先のかけやう色々有。けむの先と云こと、敵に我かかりて、勝先。 又たいの先と云は、敵かかりくる時、敵の拍子を違、あらたにかわる先、色々分別有べし。 又たいたいの先ト云こと、両方共に出合時、敵の拍子に違ての先、 又敵ト我先むすぶるる時、つよくかはりてかくる先、又敵とわれ心強相時、くつろけて勝先、 その外、強弱・軽重・浅深の先、声の先、工夫あるべき也。

声をかくると云事 声ヲかくるといふこと、常にかくるにあらず。打拍子にあふてかくる声なし。前後の声とて有。 打所不定なる時、もし先にかくる声有。又後の声とて、我うちたるあとへそのまま付てかくる、是後の声也。 声大きに静にゑいとかくる。又まいつたとかくること有。打相応たるべし。又したがふ声とて、 互に太刀と拍子あふ時、拍子にのり、やといふ声有。是は口中、心にてかけて人に聞へざるやうに懸る声也。 是三ツ、前後相応の声なり。 声さしていらざるやうにおもふとなれども、戦場に風波火などにもかくる物なれば、ことの勢にかくること也。 夜は声をかけざるもの也。折によるべし。

右条々、有増書付処、能々可有鍛練。是先兵法手習道如此也。又外之物儀、様々格別度き事也。

寛永十五年十一月吉日 新免武蔵玄信

(右仮名目録、書之省、両刀一流ノ事理、不残令書写令傳授候者也。雖為門弟、不可有他見者也。

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